あらすじ
西暦2024年10月、岐阜の長良川河川敷。
天文好きの佐々木鈴(25歳)は、恋人・山田徹と共に「アトラス彗星」の接近を観測しにきていた。満月の夜空に奇跡が起きる。
突然、空から古びた封筒が舞い降りる。差出人は「昭和19年」と記された女性・美幸。
手紙には「未来の人に会いたい」という切実な願いと、岐阜・川原町の和食屋「夕日」で働くという記述が。
不思議な力に導かれるように、鈴と徹は次の瞬間、昭和20年(1945年)7月の岐阜へと飛ばされてしまう。そこは戦争末期。空にはB-29の音が響き、防空壕への避難が日常の街。
二人は身なりも言葉遣いも現代のままなのに、なぜか周囲には違和感なく溶け込んでいく。
やがてたどり着いた「和食屋 夕日」で、鈴と徹は手紙の送り主・橘美幸(22歳)とついに対面する。
美幸は幼馴染の恵美子(鈴の祖母)にそっくりな鈴を見て涙し、手紙が本当に届いた奇跡に震える。美幸にはすでに亡くなった婚約者・林圏がいた。
学徒出陣で戦地に散った彼を、彼女は今も想い続けている。
一方、鈴と徹は「この時代に長く留まれば歴史が変わってしまうかもしれない」という恐怖と、
美幸の純粋な願いに触れたことで、ただ帰るだけでは終われない気持ちに駆られていく。やがて不思議な存在――時空を旅する鯨・クォークス、伊奈波神社の守り神・黒龍、化け猫・黒助――が現れ、
二つの時代をつなぐ「縁」の深さを教えてくれる。
それは、失われた命、届かなかった想い、そして百年後の子孫にまで続く家族の絆の物語だった。戦争の影が色濃く残る昭和20年から、令和・戦後100年を迎えた未来へ。
一通の手紙が引き起こした奇跡は、時を超えて恋を、家族を、平和への祈りを再びつなぎ合わせる。これは、鈴と徹が晩年に書き残した、ノンフィクションとフィクションの狭間にある
「セミフィクション」の記録――。何のために人は生き、愛し、別れ、そしてまた出会うのか。
百年の時を越えた、切なくも温かな家族の縁の物語。(了)