あらすじ
人に触れるほど、相手の生命力を奪ってしまう体質を持つ少女・綾音。
会話を続ければ相手は体調を崩し、手を握れば顔色が変わり、長く関われば命さえ削れていく。
それでも彼女は普通に生きたかった。
友達と笑い、誰かを好きになり、ただ並んで歩くだけの人生を望んでいた。
だから距離を守ってきた。
誰にも触れず、誰にも近づかず、静かに。
――なのに。
ある日出会った青年・亮介だけは違った。
触れても倒れない。
何度会っても弱らない。
それどころか、彼と一緒にいるほど綾音の体は軽くなり、呼吸は深くなり、世界の色が濃くなっていく。
初めてだった。
誰かといて、怖くないと思えたのは。
だから彼女は、恋を選んだ。
だがその選択は、静かに現実を歪ませていく。
彼の指先は触れるたびにわずかに震え、声は少しだけ熱を帯び、瞳の奥には説明できない光が宿り始める。
本人は気づかない。
ただ「好きだからだ」と笑うだけ。
綾音だけが知っている。
――これは、普通じゃない。
奪っている。
確かに、奪っている。
それなのに。
彼の中から流れ込んでくる温もりは、これまで触れてきた誰よりも優しく、強く、甘かった。
まるで、
奪っているのではなく
繋がっているみたいに。
触れれば奪う。
離れれば失う。
矛盾した感覚の中で、綾音は悟る。
この恋は、長くは続かない。
自分が彼を壊す前に、離れなければならない。
そう決めたはずだった。
――けれど彼は言う。
「君がいい。たとえ死ぬとしても」
命を削る恋と、
命を捧げる愛。
これは呪いか、奇跡か。
触れれば終わる運命の二人が選ぶのは、
世界か、互いか。