あらすじ

九年間、笑い方を忘れていたことに気づかなかった。 辺境伯夫人クラーラは、夫の留守を一人で守り続けた。 税務も交渉も陳情も、すべて彼女の帳簿が支えていた。 夫が王都から連れ帰る客人が毎回同じ女だと知っても、何も変えなかった。 変えたのは、五歳の息子レオのひと言だった。 お母さま、いつ笑うの。 その朝から、クラーラの手は帳簿ではなく離縁届に向かう。 条項の一つ一つを自分の筆で書き上げ、息子の養育権を明記し、署名した。 九年分の帳簿を荷箱に詰めて、彼女は屋敷を出た。 残されたのは、帳簿を読める者のいない辺境伯領。 月末の収支報告を出せる人間は、もうどこにもいない。 実家の商会で再び数字と向き合う日々の中で、一人の商人と仕事を重ねるようになる。 彼はクラーラを肩書きではなく、帳簿の腕で見ていた。 三年前から、発注書の余白に書かれた領民への気遣いに気づいていたという。 けれどクラーラは、人を信じることがまだ怖い。 九年かけて学んだのは、頼った先に裏切りがあるということだった。 笑える場所を探すと息子に約束した母親は、その場所にたどり着けるのか。

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小説を読もう2026/03/08
  • 現在の作品五歳の息子に「お母さまはいつ笑うの」と聞かれたので、笑える場所を探しに離縁届を出しました