あらすじ
大陸北西部を二分する長期戦争の末期、帝国軍第九戦線は、誰の目にも明らかな破綻を抱えたまま前線へ兵を送り続けていた。
補給は滞り、命令系統は腐敗し、勝利は貴族将校のためにのみ用意され、敗北の責任は平民士官へ押しつけられる。
そんな戦場で、若き少尉ユリウス・アーデルハイトは、無能な上官の立てた作戦図が味方を殺しかけていることを見抜く。
彼は副官エリナとともに、崩壊寸前の部隊を立て直し、常識外れの観察眼と戦術眼で局地戦を覆していく。
だが、その勝利は栄誉にならない。
戦果は上層部に奪われ、正しさは記録から消され、戦場には説明のつかない違和感だけが残っていく。
敵は本当に“敵”なのか。
なぜ敵軍は、勝てる局面で不可解な撤退を繰り返すのか。
なぜ遺棄陣地や古い遺跡には、帝国の公文書と矛盾する痕跡が眠っているのか。
戦場で功績を重ねるほど、ユリウスは前線の一士官ではいられなくなる。
軍の中枢、帝都の政治、そして帝国そのものが隠してきた何かが、少しずつ彼の前に姿を現し始める。
彼が観測した断片は、やがて一つの仮説へ収束する。
この戦争は国家同士の争いでは終わらない。
これは、敗残兵のように始まった一人の平民士官が、戦場の観測者となり、観測し直すまでの物語。
灰と泥にまみれた塹壕の底から、すべての観測録は始まる。