あらすじ
現代日本の善意を持ち込んだ主人公の一人、リルは『鳥獣憐みの令』を制定し、より良い世界を願って歩み始めた。しかしその法は、政治的思惑と民衆の誤解の中で次第に歪み、孤児院の崩壊や虐殺という悲劇を招き、彼女自身もまた王国の聖女から魔王へと貶められていく。そうした破局の只中で、リルは自らを支配していた記憶、すなわち瑠璃という人格の正体に向き合い、与えられた役割ではなく、自らの意志で歩み直すことを決意する。
一方、本来は願いの魔法によって怒りを抑制されていたイシュの民もまた、人間の残虐さと、『願いの魔法』の消失をきっかけに、未知の感情である怒りを知っていく。例外種のラヴィや紫露は、旅や秘術の果てに、怒りとはただ人を傷つけるためのものではなく、生きるための熱であり、鍛えれば灯火にもなりうるものだと見出していく。凄惨な争いを経たのち、彼女たちが選ぶのは暴力による報復ではなく、葬送と祈りを通じて憎しみの連鎖を断ち切ろうとする道であった。
また、鳥獣憐みの令という慈悲の法が、やがて動物を利用した恫喝や種族隔離の装置へと変貌していく過程には、社会制度の恐ろしさが刻まれている。反乱と虐殺を経て、具体的すぎた悪法は、「むやみに生き物を虐げることを禁ず」という一行の戒めへと削ぎ落とされ、ようやく新たな良心の規範へと姿を変える。しかしその頃には、帝国の情報操作によって聖女が魔王になったという神話が作られ、個人の真実は国家間の諜報戦と軍事的緊張の中に飲み込まれていった。
これは、善意が制度となり、制度が歴史となり、歴史が神話へと書き換えられていく物語である。そしてその果てに、楽園ガン・イシュへと辿り着いたリルとイシュの民は、失われたものの上に何を築き、いかなる未来を選び取るのか。その続きが、ここから始まる。