あらすじ

三千百十二回、治癒を施した。感謝の言葉が返ってきたのは、たった八回。 十年間、王国唯一の治癒の力を持つエルザは求められるままに人を治し続けてきた。代価として自分の身体が壊れていくことを、誰も知らなかった。知ろうともしなかった。 婚約者だった王太子に捨てられた翌朝、一通の手紙が届く。辺境の砦の守備隊長からの、治癒の力を貸してほしいという依頼。その末尾にはこう書かれていた。 断ってくれて構わない。 十年で初めて目にした一行だった。 砦で待っていたのは、手紙では丁寧な長文を書くのに対面では三語しか話さない寡黙な隊長と、感謝を叫ぶのに遠慮を知らない兵士たちと、聖女の肩書きなど気にもしない薬草師の女だった。 エルザの治癒を記録する者は王都にはいなかった。けれど砦では、誰かが一人分ずつ帳面に書き残している。名前と症状と、回復した後の姿を。 やがて王都から届く命令が、この場所を揺るがし始める。 自分の意思で何かを選んだことのなかった彼女が、初めて手を伸ばすものは何か。

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小説を読もう2026/03/07
  • 現在の作品「お前なら分かってくれるだろう」を三千回聞いた 聖女は、「断っていい」と手紙にだけ書いた寡黙な隊長の砦で初めて断ることを知る