あらすじ
雨音に紛れた、彼女の小さなため息……
東京郊外の静かな住宅街、調布市を舞台にした、甘くて切ない青春ラブストーリー……のはずだった。
平凡で内気な高校生、霧島志優(きりしま しゆう)は、毎朝の何気ない日常に幸せを感じていた。
彼の彼女、霧島穂香(きりしま ほのか)は学校中の憧れの存在だ。
黒髪ロングに優しい笑顔、チアリーディング部のキャプテンで成績優秀、誰にでも明るく接する人気者。
そんな完璧な彼女が、なぜか自分を選んでくれた。
校門での朝のハグ、授業中の投げキッス、夜のビデオ通話での甘い声……
志優にとって、穂香との時間は宝物だった。
しかし、ある夜。
充電器を借りに穂香の部屋へ行った志優は、偶然スマホの通知を見てしまう。
送信元は「Ō♡」――3年生バスケ部キャプテンの大城旺次郎(おおしろ おうじろう)。
内容は、明日の夜の「いつものホテル」予約と、黒い服の指定。
穂香はシャワーから出てきた瞬間も、いつもの優しい笑顔で「なんでもないよ」と誤魔化した。
その日から、志優の心に小さな亀裂が入った。
穂香の笑顔が、ほんの少し遠く感じる。
彼女の視線が、時々どこかへ泳ぐ。
志優はまだ信じたくない。
「きっと勘違いだ」
「穂香は俺を好きでいてくれる」
でも、頭の中では最悪の想像が止まらない。
穂香が誰かと笑い合っている姿。
抱き合っている姿。
キスしている姿……。
志優は決めた。
直接問いただす勇気はない。
だから、静かに、見つめることにした。
穂香の変化を、雨音に紛れて聞こえる小さなため息を、
ただ黙って、追いかけるしかない。
この物語は、幸せだった日常がゆっくり崩れていく過程を描く。
甘い青春の記憶と、じわじわ迫る裏切り。
志優の心が壊れていく音を、読者だけが聞いている。
穂香の心は、本当に離れていったのか。
それとも、志優が気づかなかった何かがあったのか。
そして、最も残酷なのは――
志優自身が、その痛みに少しずつ惹かれ始めていることかもしれない。