あらすじ
千年を生きた魔女は、誰かを失う痛みを知りすぎていた。
深い森の奥で人を拒み、一人で暮らすその女は、壁に正の字を刻んで日々を数えている。
愛した者の顔すら薄れていく呪いの中で、もう誰とも関わらないと決めていた。
薬師見習いのユーリは、師匠を亡くし、村では半人前と蔑まれている。
遺された図鑑の片隅に、たった一行の走り書きを見つけた。
森の魔女を頼れ、と。
毒に倒れた青年を、魔女は黙って助けた。
治療は丁寧だった。帰り道を光で照らした。
それなのに、二度と来るなと告げた。
追い返されても通い続ける青年と、拒みながら声が柔らかくなる魔女。
季節が巡るたび、二人の距離は縮まっていく。
だが魔女の力を狙う者たちの影が、静かな森に迫っていた。
彼女の隣にいられる時間は、長くてもあと数十年。
千年を生きた者にとって、それは瞬きほどの短さでしかない。
それでも隣にいたいと願うことは、残酷なのか。
それとも。