あらすじ

帳簿は嘘をつかない。人は嘘をつく。 二十四年生きて、わたしが確信しているのはそれだけだ。 「リーネ・アシュベル。本日をもって、貴女の商会勤めは不要となりました」 上司の声は事務的だった。 机の上に退職の書類が滑るように置かれる。 わたしの手は震えなかった。 予想していたからだ。 三年間、朝は誰より早く、夜は誰より遅くまで帳簿と向き合った。 休日もなく、数字を追いかけ続けた。 それでも、没落した子爵家の娘に居場所はなかったらしい。 「……承知しました」 ペンだこの残る指で書類に署名する。 わたしの三年間が、インクの一筆で終わった。 荷物はカバンひとつ。 商会の扉を出ると、春なのに風が冷たい。 さて、どこへ行こう。 ポケットの中で、一枚の求人票がかさりと音を立てた。 辺境の街ヴェルデン。聞いたこともない場所の、小さな商会。 足が動いた。迷うほどの選択肢は、もうない。 ――知らなかった。あの辺境が、わたしの人生をまるごと変えてしまうなんて。

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小説を読もう2026/03/07
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