あらすじ

王宮の白い回廊を、私は二度と振り返らないと決めた。 背中に刺さる視線。ひそひそと追いかけてくる囁き。足音だけが、やけに大きく響いていた。 「リーゼル・フェルゼン。貴女に告げる」 玉座の間で、王太子エルヴィンの声は震えていなかった。 隣に立つ金髪の令嬢――ナディアが、慈しむような微笑みを浮かべていた。それが合図だったのだと、あの時の私にはわからなかった。 「婚約の破棄、および、王宮からの追放を命ずる」 息を吸う。吐く。手のひらの爪が食い込む感覚だけが、現実だった。 弁明の言葉は用意していた。けれど口を開く前に、衛兵が両脇に立った。制度は、こういうときだけ素早く動く。 門を出た瞬間、冷たい風が頬を打った。 振り返らない。泣かない。私はまだ、何も終わっていないと知っている。 ――だから、ここから始める。 足元に落ちた影だけが、私についてきた。 そしてその影の中に、もうひとつ、見知らぬ影が重なっていることに、このときはまだ気づかなかった。

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小説を読もう2026/03/06
  • 現在の作品追放された悪役令嬢は王宮の影から成り上がる