あらすじ
午前2時44分。
毎晩その時刻になると、自動ドアが開く。
家族も親戚もいない18歳の「僕」は、高校を卒業してすぐ、練馬区の某コンビニで深夜バイトを始めた。蛍光灯の下で一人きりの夜勤。退屈だけど、それなりに平穏な日々・・・のはずだった。
ある夜から、毎晩同じ時刻に同じ客が来るようになる。
午前2時44分。黒いジャケットの男。買うのはいつもブラックコーヒーとおにぎりの梅。小銭はぴったり。一言も発さない。表情もない。
最初はただの常連だと思っていた。
だが、同僚は「そんな客は知らない」と言い、防犯カメラにはその一分間だけノイズが走って何も映っていなかった。
調べるほどに深まる謎。
掲示板で見つけた不穏な書き込み。すべての投稿時刻が「午前2時44分」。
話を逸らす店長。連絡が取れなくなる前任のバイト。
「あの客に話しかけるな。名前を呼ぶな。目を合わせ続けるな」
三つのルールを告げた先輩の声は、震えていた。
僕はすでに、そのうち二つを破っていた。
やがて客の行動が変わり始める。商品が一品ずつ増えていく。声にならない声で何かを伝えようとしてくる。鍵のかかった僕の部屋にまで、コーヒーとおにぎりが届けられる。
店の裏手にある古い墓地。そこに刻まれた没年月日は、わずか二ヶ月前。
この土地に伝わる「通り道」の伝承。
死者が通り過ぎるための儀式「寄り道の儀」。そしてコンビニは、その通り道の真上に建っていた。
あの客は、通り抜けようとしている。でも、通り抜けられない。
誰にも見送ってもらえないから。
天涯孤独の僕が出した答えは、三つのルールをすべて破ることだった。
これは僕が実際に体験した話だ。信じるか信じないかは任せる。ただ、午前2時44分にコンビニに行った時、レジの店員がこっちを見て固まったら。それはたぶん、気のせいなんかじゃない。