あらすじ

明治二十三年、東京・銀座。  夕暮れになると、半纏を羽織った娘が通りを走る。手には硫黄の火種がついた点火棒。ガス灯六十三基に、一基ずつ火を灯していく。それが志乃の仕事だった。  ある晩、高すぎるガス灯に手が届かず立ち往生する志乃の前に、一台の人力車が止まる。寡黙な車夫・辰吉は「乗んな」とだけ言い、車の上に志乃を立たせた。ガス灯の光が二人の顔を照らした、それだけの夜。  以来、辰吉は毎日夕暮れに現れ、黙って冷や水を差し出すようになる。  だが時代は動いていた。電灯の白い光が銀座に押し寄せ、琥珀色のガス灯は一基、また一基と消えてゆく。志乃の仕事も、辰吉の人力車も、いつか「要らなくなる」──。  消えゆく灯を灯しつづける娘と、走ることしかできない男。二人の手には同じ夜の火傷の痕が残っている。  灯は変わる。人は変わる。  では、その灯を灯そうとする手は?

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カクヨム
カクヨム2026/03/05
  • 現在の作品【明治短編小説】夕炎(ゆうほむら) ~銀座六十三灯を継ぐ人~(約29,000字)