あらすじ
悠の妹・ひなが交通事故で重症を負い、意識不明となる。塾帰りの悠は母の電話を受けICUに駆けつけ、医師から「楽観できない」と告げられる。家族の絶望の中、悠は冷たい壁に額を押しつけ「助かれ」と繰り返す。毎日病院に通い、ひなの手を握り「助かりますように」と唱え続ける。信仰のない自分が言葉を伸ばすしかできない無力さに気づく。
向かいの病室では九歳の少年・拓也が本を読み闘病中。一度目が合う。一週間後、ひなが奇跡的に目を覚ます。家族は喜びに涙するが、拓也の母親の泣き声を耳にする。翌日、拓也が急逝。日付の一致に中学の「保存則」を思い出す。祈りの重さがひなの幸運として誰かの不運に流れたのか。新新聞記事を調べ、好転と不幸の事例をノートに記録。相関か因果か。証明できない恐怖に囚われ、ひなの笑顔に拓也の空白が重なる。
ひな退院後、家に笑顔が戻るが夜になると唱えられなくなる。祈れば誰かが傷つく。祈らなければひなを守れない。看護師・市川に打ち明けると「祈りは弱さじゃない。本当のことよ」と諭される。十年病棟の生と死。祈る人が絶えない理由。河川敷で言葉なき祈りを選ぶ。唱えない重さを抱え、無力を受け入れる。それが新たなおまじない。ひなのそばにいる誠実さで歩き出す。