あらすじ
作品名:『丸くハゲ刈りに』
【あらすじ】
「20センチじゃ、全然足りない。……全部いらないの」
主人公・鮫島花は、自慢の栗色の長い髪を捨て去る決意をする。訪れたのは、無機質な空気が漂う百貨店の一角にあるサロン。そこで彼女を待っていたのは、氷のような瞳を持つ美容師、柿沼沙也加だった。
「髪も、眉も。丸くハゲ刈りにしてください」
常軌を逸した花の依頼に、沙也加は一切の動揺を見せず、ただ淡々と告げる。
「……承知いたしました」
一剃りごとに「女の子」という執着を剥離(デリート)していく花。その姿をインスタグラムにアップすると、画面は友人たちからの怒りの絵文字**「😡😡😡」**で埋め尽くされる。しかし、その拒絶の嵐こそが、花にとっては救済のメロディだった。
狂気は加速し、飼い猫のサスティナ、そして実の母親までもが「半分ハゲ刈り」の異形へと変貌していく。深夜、怒り狂って花の自宅に押し寄せた友人たちが目にしたのは、髪を失い、眉を消し、月光を反射して輝く「完璧な無」の聖域だった。
バリカンの駆動音が響く中、腕立て伏せをしながら無機質に見つめる沙也加の視線。
少女たちは、恐怖の先に何を見たのか。
「ねえ、わたし、かわいい?」
【登場人物】
鮫島 花(さめじま はな):
SNSで完璧な「自分」を演じることに疲弊した少女。すべてを削ぎ落とした「剥離(デリート)」の美学に目覚め、教祖的な存在へ変貌していく。
柿沼 沙也加(かきぬま さやか):
謎めいた美容師。善悪の判断を介さず、依頼者の望みを「完璧に遂行」することにのみ執着する。鋼のような肉体を持ち、常に冷静。
サスティナ:
花の飼い猫。物語の犠牲者であり、半分ハゲ刈りにされたその姿は、一家に流れる狂気の象徴となる。
花の母:
一見上品な婦人だが、娘以上に深い「剥離」の闇を抱えていた。
【見どころ・キーワード】
「承知いたしました」: すべての破壊を肯定する、死神の宣告のような決め台詞。
😡の太鼓: SNSの誹謗中傷が、現実の狂気へと反転する圧倒的なリズム感。
全剥離(フルデリート): 髪、眉、感情。人間を定義する要素を削ぎ落とした先に現れる、不気味で耽美な「美」。