あらすじ
双つの月が空に浮かぶ世界。
人類はかつて精霊から力(マナ)を簒奪し、己の欲望のままに強大な国家と階級社会を築き上げていた。一方、人間の手の届かない絶対の秘境「ニザ大森林」では、夜の女神を信仰するダークエルフやエルフたちが、大自然の力(オド)と調和する静謐な暮らしを営んでいた。
ある夜、大陸で栄華を極めたローベント王国が、裏切りと侵略の業火に沈む。
崩れ落ちる王宮の奥深く、先祖返りの美しい瞳を持つ側妃は、己の命と引き換えに一つの「祈り」を託した。
それは、生まれたばかりの我が子を、夜の女神が愛する深く暗い森へ逃がすことだった。
血と炎の匂いが立ち込める人間の世界から、底知れぬ闇と精霊がざわめく神々の領域へ。
忠義の乳母に抱かれ、奇跡的に森へと辿り着いたその赤子は、人間社会において力の象徴とされる「マナ」を一切持たない欠落者だった。だが、その純真な瞳には、人間が失ったはずの世界の真実を視透かす不思議な力が宿っていて――。
魔王も、勇者も存在しない。
これは、すべてを失った亡国の姫君が、夜の森の美しき隣人たちに愛され、やがてその「視える眼」で、血塗られた人間の歴史と対峙していくまでの、静かで壮大な大河ファンタジー。