あらすじ
プロローグ【虚構】
※この物語はノンフィクションである。
蟬の聲がやけに頭に響き、陽炎が揺らめく夏の日の恋だ。
「もう、忘れてしまおうか」
なんて言葉を、縋るように繰り返した。
もう別れてしまった彼女との記憶を、『過夏の記録』として記しておこうと思う……。
俺はお墓の前で手を合わせる彼女の背中を見つめた。もし君がここにいたなら、なんて声をかけるだろうか。
「ねぇ、カナタ。あの本持ってるよね?」
「お墓に供えるって話だっただろ?持ってるよ」
彼女はニコッと笑う。
「供える前に読ませてほしいな」
「ああ、良いけどここで読むのか?」
こんな蟬の聲が五月蠅い猛暑の下で読書か。これだから読書家は。
「ちょっと不謹慎かな」
「いや、きっと読みたいと思うよ」
「流石元カレだね」
元カレ……その言葉が胸に突き刺さる。彼女に『過夏の記録』を手渡すと、すぐに本を開いて読み始めた。すると、強く生暖かい薫風が吹いた。
「うわっ!?」
風にあおられて、彼女の栞が飛んで行ってしまう。
今日であの日から二年か……。