あらすじ
『年金15万円と線維筋痛症 ― 動けない老後』
朝の光は
昔と同じように
カーテンのすき間から
静かに部屋へ入ってくる
なのに
体だけが
昔のようには動かない
背中の奥で
小さな火が
ずっと燃えているみたいに
痛みが
じわり
じわりと広がる
六十五歳
やっと
少し休めると思っていた
若い頃から
働いてきた
寒い朝も
暗い夜も
工場の音の中で
スーパーの蛍光灯の下で
誰よりも早く働いた
「女だからって
負けたくない」
そう思って
歯を食いしばって
男の人と同じように
時には
男の人以上に
働いてきた
なのに
年金の通知を開くと
十五万円
紙の上では
それだけあるのに
税金
保険料
介護保険
静かに
静かに
引かれていく
残るのは
十三万円
「これが
私の老後なの?」
誰に聞くでもなく
部屋に落ちる声
窓の外では
子どもたちの笑い声
世界は
今日も動いている
だけど
私の体は
動かない
線維筋痛症
名前だけは
難しいけれど
つまり
体のあちこちが
痛い
ただそれだけ
それだけなのに
立つこと
歩くこと
働くこと
全部が
遠くなる
それでも
朝は来る
コーヒーの湯気
少し苦い匂い
窓から入る
春の風
パン屋の
甘い香り
小さなものが
胸に触れる
私は思う
「私
ちゃんと生きてきた」
誰よりも
まじめに
静かに
働いて
六十五年
歩いてきた
痛みはある
お金も
多くない
それでも
今日の空は
青い
だから
ゆっくりでもいい
ほんの少しでもいい
私は
今日を
生きていく。