あらすじ

私には名前がない。教義もない。奇跡を起こす力も、ない。 私はただの石だ。 岩盤から切り出され、人の形を与えられ、「神像」と呼ばれるようになっただけの、大理石の塊に過ぎない。 最終戦争の一週間前、人々は私の足元に殺到した。 ある者は「慈悲深き母」と呼び、ある者は「裁きの主」と呼んだ。彼らは互いに矛盾する祈りを叫びながら、私の指先の金箔を爪で削り取り、涙と血で石肌を汚していった。 私は何も答えなかった。何も、できなかった。 やがて人々は去り、閃光が走り、世界は灰色に塗り潰された。 それから百年。 風が私を削り、灰が私に積もり、かつて「神」と呼ばれていたこの石塊は、ゆっくりと元のただの石に戻っていく。 誰も祈らない世界で、祈りを受ける器だった私が、百年間の沈黙の中で観測し続けたものの記録。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/03/04
  • 現在の作品神像は祈らない