あらすじ
人を騙し、金を奪った青年は、罪悪感と恐怖に追い詰められた末に死に、名のない妖怪となる。
夜の町をさまよう彼には、もう誰の目にも映ることがない。
それでも、実家の朝の匂い、母の手のぬくもり、かつて自分に与えられていた名前だけは、消え残るように胸の奥に留まりつづける。
だがその輪郭も、夜を越えるたびに少しずつ欠けていく。
やがて彼は、百鬼夜行の端に立つ。
そこに連なるのは、帰れなかったもの、止まれなかったもの、顔を失ったもの、欲に寄り添いすぎたものたち。
異形の行列は恐ろしく、どこか美しく、そして彼自身の罪の影を映すようでもあった。
そこで知るのは、罪は消えないということ。
どれほど悔いても、どれほど苦しんでも、許されるとは限らないということ。
残された道は、夜に留まりつづけるか、あるいは救いのない地獄へ向かうか。
これは赦しを得るための物語ではない。
名を失い、現世からこぼれ落ちたひとりの青年が、消えない罪とともに歩き出す、静かで長い贖罪の物語である。