あらすじ
東京で働く大野さくらは、祖母・ふじが施設に入ったと聞き、気重いまま島根へ帰省する。窓際の椅子に座るふじは、さくらを「みつ」と呼び、膝の上で「たのむから、いてくれ」と呟き続ける。
父の義男は「みつは戦争で死んだおじさんだ」とだけ答え、さくらはふじの荷物から昭和二十年の日記を見つける。そこには特攻前夜、兄のみつが「おまじないでもかけてくれ」と笑ったのに、十七歳のふじは何も言えなかった夜が綴られていた。
ふじに問うと、「言いたいことはあったのに声が出なくて。呪文なんてないの。あるとしたらそばにいること」と穏やかに語り、手を握り合う。
三ヶ月後、ふじは眠るように逝き、葬儀で寡黙な義男が棺の前で声を殺して泣き崩れる。日記の最後、「みつ、さくらがきてくれたよ。おまえのぶんも、長生きしたよ。」を読み、さくらは胸が詰まる。
職場で同僚・安田から「消えたいみたいな感じがする」と打ち明けられ、言葉を探したさくらは手を重ね、「たのむから、いてくれ」と呟く。安田の肩が震え、夜の街の灯を見ながら、二人は静かに寄り添った。