あらすじ

十七年間、母の怒鳴り声を聞いてきた。 朝から理由もなく始まる説教、心配と怒りの区別がつかない感情の爆発、「実質十一月」みたいな謎の論理。高校三年の拓也にとって、母親とはそういう存在だった——うるさくて、めんどくさくて、できれば関わりたくない。 でも、ある夜中に台所でひとりで座っていた母の横顔を、拓也はずっと忘れられずにいる。 情報工学部のパンフレットにびっしりと書き込まれたメモ。熱が三十八度七分あっても晩ごはんを心配する声。雑炊を食べながらこぼした涙。 怒鳴り声の裏側で、母はずっと何かを考えていた。それが伝わるのが、ただ、下手なだけで。 「お母さんの肉じゃがが好き」と、一度も言ったことがない。これからも言わないと思う。でも、ずっと好きだ——肉じゃがも、嵐みたいなこの人も。 来年受験で、うまくいけば再来年には家を出る。あの怒鳴り声を毎日聞くことは、なくなる。 それが、少しだけ、寂しい。​​​​​​​​​​​​​​​​

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カクヨム
カクヨム2026/03/02
  • 現在の作品春嵐