あらすじ
契約がまとまる前に寸法を指定して取り寄せられた防寒外套が、部屋に置いてあった。
カティアは前世で過労死した元社畜OL。 転生先の公爵令嬢として王太子に婚約破棄され、北の領主と三年の期限付き契約婚を結んだ。 恋愛感情は前提としない。契約書にそう書いてある。
居場所がほしければ自分で作るしかない。 初日に帳簿室の扉を開けると、何年分もの数字が埃の中に眠っていた。 棚卸し、突合、差異の追跡。 前世で叩き込まれた管理業務の技能が、ここでようやく誰かの食卓とつながった。
数字を追うほど、領地の赤字の裏に不自然な影が浮かぶ。 王都から届くはずの物資の記録に、あるべき数字がない。
無口な領主は仕事を一言で認めてくれた。 翌朝、机の上の冷めた茶が温かいものに替わっていた。 それが義務なのか別の何かなのか、契約書のどこにも書いていない。
三年経ったら出ていく。そう決めていた。 なのに帳簿を正しく並べるほど、この場所から離れられなくなっていく。
彼が毎日つけていた小さなノートの中身を、彼女はまだ知らない。