あらすじ
雨の降る夜、よくある場末のファミレス。28歳の会社員・圭介は、異常な束縛を繰り返す恋人の美香との関係を終わらせるため、ついに別れを切り出した。密室を避け、あえて人目のある場所を選んだ圭介の決死の言葉に対し、美香は能面のように冷たい笑顔で一言だけこう告げる。
「……別れないよ」
その直後、ウェイトレスが銀食器を落とすけたたましい音が店内に響く。気味悪く感じた圭介が席を立ち、逃げるようにファミレスの出口を抜けた瞬間――視界が歪み、彼は再び「21時14分」の美香の目の前に座らされていた。
何度席を立っても、トイレに逃げ込んでも、店を飛び出そうとしても、必ず「別れ話を切り出した直後の21時14分」へと引き戻されてしまう。圭介は、自分が逃げ場のないタイムループに閉じ込められたことに気づく。
「圭介の未来にいる泥棒猫どもを、一人残らず殺してやりたい。だから、未来をなくせばいいんだって気づいたの」
美香の執念は、過去や現在にとどまらなかった。彼女の狂気は「圭介が未来で出会うかもしれない見知らぬ女たち」への異常な嫉妬へと肥大化し、現実の空間と時間そのものを歪めていたのだ。
ループを重ねるごとにエスカレートしていく美香の狂行。彼女は自らの腕を切り刻み、圭介に痛みで愛を迫る。時間が巻き戻っても、圭介が受けた肉体的な激痛と精神的疲労だけは決してリセットされない。周囲の客たちが顔のない化け物へと変貌し、ファミレスが赤黒い肉の牢獄と化していく中、圭介の理性は削り取られていく。
殺すことも、逃げることも、死ぬことすら許されない。永遠に続く「狂愛の密室」で、男の心が完全に砕け散るまで終わらない凄惨な拷問の果てに、圭介が選ばされる残酷な結末とは――。
日常の風景が突如として絶望の無限回廊へと反転する、サイコロジカル・タイムループホラー。