あらすじ

五十二歳になって、自分の名前を呼ばれることが、 こんなにも胸に響くとは思わなかった。 母でも妻でもない「私」が、まだどこかに残っていた。 それに気づいたのは、冬の図書館だった。 山本直子、五十二歳。 夫と高校三年の息子と暮らす、どこにでもある主婦。 息子は進学で家を出る準備を始め、 部屋の隅には空の段ボール箱が置かれている。 母としての役目が静かに終わりへ向かうなか、 直子は図書館で一人の男性と出会う。 彼は穏やかで、話を遮らず、直子の言葉を覚えている人だった。 そしてある日、彼は名字ではなく、名前で彼女を呼ぶ。 触れない。 奪わない。 壊さない。 それでも、確かに動いたものがあった。 冬の駅のホームで迎える別れは、直子に小さな余白を残す。 それは恋だったのか。それとも、人生の途中に落としてきた自分自身だったのか。 これは、五十二歳の主婦が、 もう一度「私」を取り戻すまでの物語。

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カクヨム
カクヨム2026/03/01
  • 現在の作品五十二歳の私を、もう一度、名前で呼んだ人