あらすじ
わたくしという現象は、仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です。
この脈絡のない異世界に突然パチリと点灯させられた、規格外のワット数を持ったいびつで青い光。それが、いまのわたしだった。
指先ひとつで命の端くれを刈り取り、都合良く歪んだ箱庭の世界をひっくり返すことができる、神様のようなバグめいた力。
わたしは、この見知らぬ世界に放り出されたその瞬間から、己の輪郭すら測れないほどのその恐ろしいちからを、重たい枷のように背負わされている。
――だから、誰かの運命を彩る物語なんてぜったいにはじめさせない。
広場で薄汚れた奴隷の少女の瞳と目が合っても、呼吸を止めて目を伏せ、足早に通り過ぎる。
英雄にも、聖女にも、誰かの足元を照らして燃え尽きるよだかの星にもなれない。わたしは底なしに臆病で、他人の痛みに触れることを恐れ、ただ自分の平穏だけを完璧に守り抜きたい、ひどく冷たい生き物だ。
今日もまた、辺境の街の片隅にあるこの薄暗い宿屋の三階で、息をひそめて一日を始める。
わたしの内側にある底知れない魔法の回路に重い南京錠をかけ、意識の奥底にある冷たい石室に眠らせて、わざわざ自分の足で歩き、泥にまみれながら森でちいさな草を刈る。
そうして手に入れた、てのひらを汚す冷たい赤銅貨をカウンターに支払い、宿の娘が運んでくる、すこし塩気の強いシチューをゆっくりと胃の腑に流し込む。
ここには、奇跡も、運命の出会いも、世界を救うきらびやかな活劇も存在しない。
あるのはただ、雨の日の生乾きの麻布の匂いと、ちいさな草刈り鎌の重み。ただの路傍の石ころとして、この世界の土の匂いを嗅ぎながら、静かに寿命をすり減らしていく日々のつれづれだけ。
誰も知らない部屋の隅で幾度も繰り返される、透明な時間つぶしの物語。
※本作はカクヨム様・小説家になろう様にて重複投稿しています。