あらすじ
冬の駅前を歩くたび、水野葵は大学三年のあの夜を思い出す。
隣を歩きながら、何度も言葉を探したのに、結局なにも言えなかった夜。
「じゃあね」で終わったその別れのあとも、伝えられなかった気持ちだけが、ずっと心に残り続けていた。
高校に入学した春。
まだ恋と呼ぶには早すぎたころ、葵は放課後の教室で、木下佳乃と同じ時間を少しずつ重ねていく。
同じ場所にいること。
言葉を交わすこと。
わからないところを教え合うこと。
帰るタイミングが重なること。
並んで歩いても、気まずくないこと。
そんな何でもない積み重ねの中で、名前を持たなかった感情は、静かに形を変えていく。
大きな出来事があったわけではない。
ただ、放課後の教室、何気ない会話、少しずつ縮まっていく距離の中で、言葉にならないものだけが残っていった。
そしてその想いは、最後まで言葉にならなかった。
これは、伝えられなかった想いと、戻らない時間の余韻を描く、静かな青春恋愛小説。