あらすじ

誰にも名前をつけてもらえなかった仕事がある。 備蓄の管理。予算の帳尻合わせ。外交書簡の整理。 アルセーヌ王国の宮廷で、エステルが続けてきた仕事はすべて聖女の功績に書き換えられ、最後には身に覚えのない罪で宮廷を追われた。 行き場をなくした元侯爵令嬢が差し出されたのは、隣国の公爵家との期限付きの契約結婚だった。 残り一年。 その期限の中で、エステルは騎士団の荒れ果てた備蓄倉庫に手をつける。 棚卸し、帳簿の整備、補給路の見直し。 前の人生で総務課主任だった記憶が、羽根ペンとインク壺の世界で静かに動き始める。 寡黙な公爵は多くを語らない。 けれど夜の書庫に湯を届け、蝋燭を明るいものに替え、委任の範囲を少しずつ広げていく。 契約の義務にはどこにも書かれていないことばかりだ。 なぜこの人は、こんなことをするのだろう。 エステルがその疑問の答えに近づくとき、公爵家の金庫には二年間隠されてきた文書が眠っている。 そしてその文書の意味を知ったとき、築き上げた信頼は根底から揺らぐことになる。 優しさの理由を知ってもなお、隣にいたいと思えるのか。

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小説を読もう2026/03/01
  • 現在の作品追放された侯爵令嬢の契約婚。書庫に届く湯気の理由を、私はまだ知らない