あらすじ
【記憶を代償に歪みを正す。――これは、東京の夜を書き換える「家紋」の物語。】
「――覚悟してくれ。僕は明日、君の名前を忘れているかもしれない」
東京、神楽坂。
大学で民俗学を教える非常勤講師・葛葉湊(くずは みなと)は、よく見ると理知的なイケメンだが、一見するとどこにでもいそうな学者だ。
だが彼には、誰にも言えない裏の顔があった。
古来より東京の霊的構造を護る一族『北辰(ほくしん)』の末裔。
都市のバグ(穢れ)を物理法則ごと書き換える、孤独な「調律者」である。
最強の権能「重力干渉」。
だが、その代償は「自らの記憶」を差し出すこと。
敵を倒すたび、愛した人の笑顔も、昨日の夕食の味も、彼は忘れていく。
そんな摩耗し続ける彼を支えるのは、二つの存在。
御影(みかげ):人の言葉を解す、尊大で過保護な白猫(神獣)。
神代暦(かみしろ こよみ):湊の「眼」となる女子大生。
「先生が忘れても、私が全部記録してあげますから」
彼女はファインダー越しに、湊の失われていく自己を世界に繋ぎ止める。
「蛇の目」「隅立四つ目」「下がり藤」――。
敵対組織『七曜会』が仕掛けるのは、家紋を用いた都市の初期化。
歌舞伎町の欲望、渋谷の崩落、六本木の虚栄。
湊は今日も『月星』のハンカチで涙を拭うように、歪みを調律する。
たとえ明日、隣にいる彼女のことを忘れることになったとしても。