あらすじ
ロンサール国の名門・アローズ家の四女であるクレアは、生まれつき声が出せなかった。
『沈黙の薔薇』と呼ばれ、実家では美しいだけの人形として扱われてきた彼女は、国境を巻き込んだ『赤き雪の戦役』の後、バルバロッサ辺境伯家へと政略結婚に出される 。
嫁ぎ先で待っていたのは、武門の誉れ高きバルバロッサ家の三男・シーザー。
「声の出ない妻を押し付けられた」
と劣等感と屈辱を抱く彼は、クレアを直視することすらなく、冷たく疎んじ放置した。
声を発せぬまま孤独な日々を送るクレア。
そんな彼女の心を救ったのは、バルバロッサ家の食客であり護衛を務める男、ゼギルだった。
彼は先の戦役で視力を失っていたが、代わりに常人離れした聴覚と触覚を持っていた。
目が見えない彼は、クレアの些細な息遣いや衣擦れの音、指先の震えから、誰よりも深く彼女の感情を「視る」ことができたのだ。
「あなたは、とても雄弁に語りかけてくれる」
声を持たない令嬢と、光を持たない騎士 。
欠落を抱えた二人は互いの影に寄り添うように惹かれ合い、クレアは生まれて初めての温もりを知っていく。
一方、妻を蔑ろにし続けていたシーザーは、クレアがゼギルの前でだけ見せる無垢な笑顔に気づき、得体の知れない焦燥感と嫉妬に駆られていくが――。
これは、声なき少女が暗闇を生きる騎士に見出され、真実の愛を手に入れるまでの物語。
登場人物
クレア:ロンサールの名門・アローズ家の四女。
生まれつき声が出せず、沈黙の薔薇と呼ばれ人形のように扱われてきた。
政略結婚でバルバロッサ家へと嫁ぐ。
シーザー 武門の誉れ高きバルバロッサ辺境伯家の三男。
声の出ない妻を押し付けられたことに猛烈な劣等感を抱いている。
そのため、クレアを直視できず、冷たく疎んじてしまう。
ゼギル:赤き雪の戦役において視力を失った武人。
バルバロッサ家の温情により食客として置かれ、ユリウスの護衛を務める。
目が見えない分、聴覚と触覚が異常に発達しており、クレアを唯一理解できる存在。