あらすじ

『超高級老人ホームひな祭りカースト』

金箔の屏風に
午後三時の光が跳ねる

月額二百万円の静寂
薔薇の香りのする廊下
転ばぬようにと敷き詰められた
上等な絨毯の上で
わたしたちは今日も
順位を履いて歩く

内裏雛の椅子は
少しだけ高い

その高さは
年金の桁数でも
肩書きの重さでもなく
「まだ見られている」という
幻想の高さだ

三人官女は笑う
五人囃子は頷く
仕舞い雛は
目を伏せているふりをする

誰もが知っている
本当はもう
ひな壇より
ベッドの高さの方が
大事だということを

それでも
三月三日が近づくと
胸がざわつく

選ばれるか
落とされるか

若いころ
会社で
家庭で
社交界で
味わった
あの甘い緊張が
点滴の針の横で
まだ脈打つ

わたしたちは
飾られているのではない

飾り続けているのだ
自分という物語を

白髪は雪
皺は地図
補聴器は
まだ世界と繋がるための
小さな旗

夜になると
屏風の金はくすみ
内裏雛も
三人官女も
ただの老人に戻る

だが
消灯後の暗闇で
誰かがそっとつぶやく

「来年こそは」

その声は
春の湿った風のように
また廊下を渡る

雛壇は毎年
組み立てられ
壊される

けれど
最後まで壊れないものがある

それは
まだ競おうとする心

まだ生きているという
ささやかな
誇り

桃の花は
静かに咲く

わたしたちも
まだ
咲いている


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アルファポリス
アルファポリス2026/02/28
  • 現在の作品『超高級老人ホームひな祭りカースト』