あらすじ
夜。帰宅途中、アパートの廊下を歩き、玄関ドアの前まで来た男は、思わず声を漏らした。
はっとして口をつぐみ、周囲を見回す。階段の陰、植込みの奥、駐車場の暗がり――物陰という物陰に目を凝らしたが、あたりはしんと静まり返っており、遠くで車の走り去る音が聞こえるばかりだった。
男はゆっくりと視線を足元へ落とすと、ドアの前にぽつりと置かれた“それ”に近づき、指先でそっと摘み上げた。
まじまじと見つめる。作り物ではない。脚は内側に折り畳まれ、抜け殻のように軽いが、光沢のある黒い背中と全身に生えた体毛――間違いなく本物のカブトムシだった。