あらすじ
「結城くんには、彼女がいる」――それは最初から知っていた。
映画好きの水野紗良は、前後の席になったことをきっかけに結城奏太と話すようになる。マイナーなバンド、単館系映画、少しひねくれたラスト。趣味が驚くほど合う二人は、あくまで“気の合うクラスメイト”として距離を保っていた。
しかし三ヶ月前、彼に勧められた映画を観た帰り道、偶然ばったり出会い、二人きりで語り合ったあの青空の日――紗良の心に決定的な「きっかけ」が生まれていた。
それは恋の始まり。
けれど、彼の隣には別の誰かがいる。
想いを伝える資格はない。
壊してはいけない関係がある。
それでも、半券は捨てられず、二枚申し込んでしまったライブチケットは行き場を失う。
向かいのホーム越しに目が合うたび、急行電車が二人の間を遮るたび、紗良は思い知る。
この恋は、空だけが知っている秘密なのだと。
やがて結城の恋人との関係に微かな綻びが見え始める。
期待してはいけないとわかっているのに、胸の奥で再び鳴る「カチリ」という音。
これは、叶わないと知りながらも止められない、痛いほどピュアで少しだけずるい片想いの記録。