あらすじ
水仙の庭で、ふたり
―― 自分が嫌いな妻と、自分が大好きな夫 ――
庭の水仙が、黄色い炎を灯すように咲いた。
「ほら、俺みたいだろ?」
光をまとい、自分を肯定しきる夫の笑顔。
私はその足元の、湿った黒い土を見る。
(私は、あんなふうには咲けない)
鏡の前では、いつも減点方式の審査がはじまる。
夫が「今日も最高」と笑う横で、私は「今日も最悪」と目を逸らす。
同じガラスなのに、どうして違う世界が映るのだろう。
「どうして私なの?」
夜、問いかけると彼は即答する。
「俺が好きだから。俺の目は正しい」
その傲慢ではない自己愛は、かつて傷ついた少年が「自分を捨てない」と誓った約束。
私の卑屈な自己嫌悪は、傷つく前に自分を切り刻むことで守ろうとした、悲しい癖。
「水仙は、寒さを知って咲くんだ」
夫が触れる茎は、冬を越えた証のように硬い。
ある朝、鏡に「悪くないかも」と零してみた。
背後から「だろ?」と笑い声がした。
失敗すれば、私はすぐに自分を呪う。
けれど夫は、少し怒ったように言うのだ。
「俺が好きな人を、お前が悪く言うな」
白は、完璧だから白いのではない。
光を受けると決めたから、白いのだ。
自分を好きになれなくても、あなたが好きでいてくれる。
その体温にほどかれながら、真逆の私たちは同じ季節を生きている。