あらすじ
「A、B、C、D……」
――ん?
夜の電車内。満員というほどでもないが、座席はきっちり埋まっている。おれは吊革に掴まり、うとうとしていた。眠気に優しく手を引かれ、まぶたが落ち、頭が前にカクンとなったそのときだった。隣から呟く声が聞こえてきた。
「E、F、G、H、I、J、K……」
おれは思わず吹き出しそうになり、喉にぐっと力を込めた。
いや、あるある。アルファベットの順番が急に怪しくなって、歌で確認するやつ。普通は頭の中でやるものだが、どうやらこの声の主は声に出している自覚がないらしい。
「L、M、N……」
子供なら微笑ましいものだが、隣でぶつぶつ呟いているのは、いい歳の男だった。しかも奇妙なことに外国人だ。
「O、P、Q、R……」
まあ、外国人だって順番を忘れることはあるだろう。とはいえ、なぜ今確認しているんだ。何かのサイズか? 服か、コーヒー、他にあるといえば……胸の――ほほう。
今気づいたが、男の真正面の座席に、胸元が大きく開いた服を着た女が座っている。しかも、なかなかの、いや、かなりの胸だ。谷間がくっきりと浮かび、電車の揺れに合わせて、ぷるんと揺れている。