あらすじ
幕末。伊予大洲藩の医師の家に生まれた武田斐三郎は、父が望む「医道」を捨て、目に見えない数式が支配する「理(ことわり)」の世界へと身を投じる。
大阪・適塾で異才たちと競い、長崎で西洋の巨大技術に圧倒された彼は、やがて恩師・佐久間象山から、未開の北の大地・函館に「国を守る星」を築くよう命じられる。
そこは、伝統という名の「非合理」が支配する戦場だった。
旧態依然とした役人たちの嘲笑。高石垣を誇りとする石工たちの反発。押し寄せる異国の脅威。斐三郎は、たった一本の測量縄と、一分の狂いも許さぬ計算尺を武器に、誰にも理解されぬ「星形の城郭」を描き出す。
しかし、ついに完成したその「星」を待っていたのは、皮肉にもかつての友や教え子たちが敵味方に分かれて殺し合う、日本史上最大の惨劇であった。
自らの最高傑作が、なぜ「同胞の墓標」となったのか。
落日の五稜郭をあとにした男が、維新の闇を越え、その先に設計した「新しい日本の形」とは――。
これは、刀を捨て、ペンと定規で時代を斬った一人のエンジニアの、孤独と再生の物語。