あらすじ
2022年ー春
青森の空の下。
規律正しく、秒単位で進む鉄道の世界。
誰もが僕を「模範的な駅員」と呼ぶ。
だが、僕の心の鏡の奥には、もう一人の「俺」が棲んでいた。
「烏(からす)は僕か? それとも、俺か」
夕暮れ時、黒い羽を広げる群れに問いかける。
僕を見つめるあの子の瞳には、いったい誰が映っているんだろう。
「僕は殺してない」
朝起きて、血まみれになった自分のシャツを見た時。喉の奥から声が聞こえる。
「俺が殺して天に報いた。……なあ、最高だろ?」
内なる声と、冷たい鉄路。
危うい均衡で保たれていた僕の日常は、或る日、無残に崩れ去る。
――あの子が、死んだ。
突きつけられたのは、彼女を殺した「容疑者」という宣告。
だが、確信がある。
……あいつも、僕も、彼女だけは殺していない。