あらすじ
「君が駄目でも、あとの二人が控えているからな」
地方の豪商の三男として生まれた士郎(しろう)は、一族の栄達という
不純な動機を背負い、帝大へと送り出された。
そこで出会ったのは、政治家一族の令嬢・御堂小夜子。
御堂家は小夜子の結婚相手を探すため数々の有名大学を訪れていた。
「刹那的な儚さを纏った、まるで椿のような美しいお人形」
周囲が小夜子をそう揶揄し、士郎を「御堂の血を繋ぐための種馬」と嘲笑う中、二人の政略結婚が動き出す。しかし、士郎は知らなかった。
その「お人形」の内側には、誰にも見せることのない鋭利な知性と、
燃えるような好奇心が秘められていることを。
ある夕暮れ、書庫で出会った二人の魂は共鳴し、士郎の執着は決定的なものとなる。
「お前を誰にも渡したくない。だから、俺は御堂の家に入るんだ」
愛するがゆえに、人知れず彼女のために色々と手を尽くし、さらには夜の営みさえも彼女を傷つけぬよう陰で「研鑽」を積む士郎。独占欲と理性が入り混じる歪な献身は、やがて小夜子を「お人形」から「一人の女」へと変えていく。
昭和初期、銀座のカフェーや密会場所である円宿を舞台に描かれる、狂おしいほどの溺愛。互いに「道具」として出会った二人が、自らの手で築き上げた「家族」の記録である。