あらすじ
クリクエラ帝国の港湾都市イーヴォシュタットに住むティアナは、二冊目の構想を練るのに行き詰まった新米作家。先輩作家クラリッサの勧めで、魔物と聖女の伝説が残る温泉地テネブレプスへ取材旅行に出かけることにした。幼い頃事故で記憶を失くした彼女にとって、生まれ故郷は見知らぬ地。古代遺跡で声をかけてきた青年カエレスのことも、幼馴染だとわからなかった。けれど大切な友達だった確信はある。拘束具で力を封じられ服従させられている彼を救うと約束し、翌日会うことにする。
黒幕である領主兄弟と顔を合わせたり彼らの手先に追われたりと危ない状況になりながらも、ティアナはカエレスとなんとか合流した。森にあるカエレスの潜伏場所へ向かいながら、自分たちの出会いやティアナに檻の結界を解かせようとしていたこと、領主エーゴンたちが必要とするときだけ外へ出されていたことなどを聞く。が、幼かった頃のカエレスに考えが及んで何故かひっかかりを覚えた。
一つきりの寝台で添い寝した翌日。ティアナはカエレスがわざと流した血が結晶になるのを見た。彼は伝説に登場する魔物で、聖女と騎士に捕らえられて以来歴代領主の不正蓄財の資源として二百年ものあいだ搾取されていたのだ。カエレスの境遇に改めて憤ったティアナは本業の得意先である師団長ゲレオンへの手紙を出し、協力を要請する。自分を利用するだけのつもりだったカエレスの胸中に強い衝動が生まれつつあることに、まったく気づいていなかった。
数日後。合流したゲレオンにカエレスの正体を明かしたティアナは、地方領主による不正売買と魔物虐待に留まらない巨悪をゲレオンから聞いて愕然とする。カエレスの血の結晶が先帝の治世で戦費の調達に使われた疑惑があるだけでなく、その捜査が現皇帝の命で過去になされたものの妨害工作によって中止となっていたというのだ。さらに領主の弟である司祭アルミンが洞窟を出ようとするティアナたちの前に姿を見せ、領主の屋敷に宿泊すれば領主エーゴンが夜中にティアナの部屋へ入ろうとしたりと気が休まらない。顔を見せにきてくれたカエレスがささやかな慰めだった。
翌朝。イーヴォシュタットへ帰還しようとしたティアナたちの前にアルミンが現れ、聖女が遺した杖でカエレスの本来の姿を暴いて操ろうとする。一方ティアナも、アルミンの身体に伝説の騎士の魂が憑依していることを皆の前で明かす。さらに幼い頃カエレスにもらった石の魔力をカエレスに投げつけ、カエレスを捕らえる拘束具を破壊した。
ヒルシュ兄弟もその先祖である騎士の魂も捕らえられ、事件の捜査がおこなわれているあいだ。ティアナはゲレオンの提案で、師団長公邸近くの一軒家へ引っ越すことにした。これぞ物語の大団円とご満悦のティアナ。カエレスが自分をつがいにと望むようになったことに、やはり欠片も気づいていないのだった。