あらすじ

明治より続く最高級の絹織物司『蒼依織』の屋号を背負う蒼井家。その長女として生まれた十歳の蒼井さくらは、完璧な両親に囲まれ、幸福な日々を送っていた。 しかし、家業を巡る重圧は、知らぬ間に両親の心を擦り切れさせ、家庭の平穏は薄氷の上に成り立っていた。 ある夜、本家の『織りの間』で古ぼけた金色の針を見つけたさくらは、人の心の綻びを縫い合わせる力――『修復師』としての能力に目覚める。 さくらの指先から放たれる薄桜色の糸は、母の苛立ちや父の諦念を鮮やかに縫い合わせ、家族に穏やかな時間を取り戻す。しかし、その奇跡には残酷な対価が必要だった。 <何かを修復するたびに、さくらは自分自身の記憶を、一つずつ失っていく> 算数の公式、幼い頃の思い出、誰かの名前。 家族の笑顔を守るため、さくらは自らを燃料にして『完璧な家族』を織り上げようとする。一方で、さくらの異変を鋭く察知するクラスメイトの常上遥香。彼女の瞳は、さくらがひた隠しにする『欠落』をじっと見つめていた。 次第に、さくらの記憶の空白は日常を侵食し始める。 本家の当主・静江が放つ圧倒的な威圧感と、屋敷に漂う漆黒の糸。それは一族を縛る業か、あるいは別の何かか。 どれほど縫っても再び現れる心の綻びを前に、さくらが最後にすべてを忘却し、ただの『空っぽの繭』になってしまう前に見つける真実とは――。 これは、自分を削ってでも『愛』を形にしようとした、一人の少女の美しくも凄絶な忘却の記録。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/02/01
  • 現在の作品『さくら色の忘却録』