あらすじ
荒廃した惑星マリアナ。
戦乱の続く地表で、補給兵アルフレッドの前に現れたのは、見たこともない白い制服に身を包んだ少女。
神経拡張兵「ウィザード」の一人である彼女の脱走を助け硝煙の匂い漂う逃亡の旅に出た彼らを、幾度となく襲う悲劇。
そして彼女はやがて女神として目覚める――
知能機械と全知の力『オラクル』をめぐる壮大な三部作の第二章。
★★★★★
☑️前作「魔法と魔人と王女様」
全六編、各7章構成
✅️本作、全3編、各七章構成
知能機械のルーツに隠された悲劇に迫る、前作から800年前の起源譚
☑️第三作、全2編、全人類を見守る魔人の誕生に寄り添う、円環を閉じる400年前の"つなぐ"完結編
★★★★★
それは、人知を超えた、新たなる力の産声。
あるいは、硝煙と血にまみれた、希望の孵化。
『やめ――!』
補給兵の悲痛な叫び声に、二発の銃声が重なる。
倒れる二つの影を一瞥もせず、その瞳に冷たい光をたたえた魔法使いは次の目標に銃口を向ける。
身を盾にしてでも――そう思う補給兵の体は、恐怖と絶望に、動かない。
それが、希望の誕生の瞬間だった。
しかし――。
彼女にあったのは、ありふれた物語だった。
どこにでもある悲劇だった。
奪われた空の下で地を這いずり、ただ生きるためだけに泥をすする者たち。
生きる意味を求め、死を思う、からっぽな生き物。
血にまみれながら、魔法使いは、道を拓いた。
人々の希望と絶望を虹色のカーテンに見ながら、未来の虚像へ向けて、そっと弾丸を乗せる。
彼女はそれだけで、自らの未来を切り開く。
いつか、全人類の未来を切り開く日に向けて。
それは、時を経て人類を導く神々がそこに宿り――神々自身が消去した記録。
だから私は、心に落とすことにした。歴史の証拠としてではなく、二人の心あるヒトの物語として。
……では語ろうか。まずは、彼らを地上に縫い付けている、空から見下ろす者たちの物語から――
★★★★★
――今のうちに楽しめるだけ楽しむことだ。
死ぬのは、前線の老練な兵士、それから、自分のような若い兵士、最後に学生たち、という順番になろう。
いつまで、この学究の砦を守れるだろうか。
一つでも多くの真実を見つけ、一篇でも多くの論文を残して、いずれミネルヴァは滅亡する。
人が生まれ、戦い、死んでいくのと同じだ。
彼の両親もそうして死んでいった。
意味も無く生まれ意味も無く死ぬのであれば、その二つにはさまれた時間に何を残すかの問題だ。
ミネルヴァの戦いは、すなわち、一日でも長く生き残り、学問を究めることだ。
だから、学生たちは自由であらねばならないのだ。
アルフレッドは、小さい頃から教わってきたこのミネルヴァの信念を、自らの信念と疑うことがなかった。
だから、良いのだ。
糧食の一部を暴いて享楽にふける学生がいようとも。
それが、彼らの生の一助にでもなるのであれば。
★★★★★
なぜ自分は、軍隊なんかに。
上手く思い出せなかった。
気がつくと、エクスニューロをつけていることが当たり前になっていた。
ウィザードとして敵と戦うことが。
きっとすべて、エクスニューロのせい。
あれさえ無ければ、自分は自由になれる。
けれど。
あれが無いと、あたしは戦えない。
……誰と?
思い出せなくなっている。
だけど、このままだときっとそいつに殺される。
エクスニューロは、力をくれる。
あれをつけたあたしには、誰もかなわない。
あれをつけていれば何でも見える。
引き金を引く前に、その弾丸が相手を倒すかどうかが分かる。
馬鹿な地雷なんて、自分はここだと叫んでいる。
あれがあるから生きてこられた。
無くなったら、死んでしまう。
いやだ。
死にたくない。
――――
★★★★★