あらすじ
中堅作家・白山は、創作の行き詰まりとある事件による心身の疲労を抱え、編集者に勧められるまま冬深い山奥の旅館「洛陽」へ向かう。断崖に寄り添うように建つその宿は、雪の静けさに包まれ、外界から切り離された小さな世界のようだった。迎えに現れたのは、凛と柚という美しい姉妹と、どこか影を帯びた女将。三人の所作は優雅でありながら、どこか均衡の乱れた家族の気配を孕んでいた。
滞在を重ねるうち、白山は凛だけが寒さに晒され、理不尽な叱責、虐待を受けていることに気づく。姉の柚は明るく振る舞いながらも、妹を庇うように寄り添い、その眼差しには愛情とも執着ともつかぬ熱が宿っていた。ある日、白山は柚から旅館にまつわる過去の転落死や、長く封じられてきた家族の秘密を語りはじめ、そして囁く──「母を殺す手伝いをしてほしい」と。
白山は作家としての好奇心、孤独な心の隙間、そして柚の甘い誘いに揺らぎながら、計画の片棒を担ぐよう求められ、次第にこの雪深い宿の歪んだ重力に引き寄せられていく。洛陽旅館の静謐な佇まいの裏には、長年積もり続けた怨念や愛憎が、雪の下の黒い水脈のように脈打っていた。
やがて、白山は自らの足音さえ吸い込むような静寂の中で、家族という閉ざされた檻の底に沈む真実の影を目撃することになる──。
暴走した愛と狂気に苛まれた、とある家族のお話。
短編です。