あらすじ
古道具屋で手に入れた、くすんだ銀の鈴。
店主は笑って言った――「鳴らせるのは一度きり。死んだ人から“一言だけ”返事が来るよ」。
母を見送ったあの春、私は「ありがとう」も「ごめん」も言えないまま、最後の会話を終えてしまった。
そして明日、仕事も町も変える引っ越しの日。背中を押してほしいのか、引き止めてほしいのか、自分でも分からないまま、机の隅の鈴が“返事待ち”のように冷たく光っている。
問いかける言葉をいくつも用意しては捨て、遺品のメモや銀のスプーンを手に取って気づく。
母がくれるのは「正解」ではなく、私が歩き出すための「許し」だったのだと。
夜更け、私は鈴を鳴らす。質問ではなく、ただの報告として。
「明日、行くね」――その返事は、一言だけ。
静かな部屋に落ちる銀の音と、たった一言が灯す“出発の救い”を描く、短編。