あらすじ
阿久津は、完璧な男だった。
若くして起業し、最愛の妻を亡くした悲劇を背負いながら、男手一つで息子を育て上げる「聖人」。
一方、僕――野上は、彼の影に寄生して生きるだけの「廃棄物」だ。
「これ、僕はもう食べ飽きたから。君が食べてよ」
「捨てちゃうのは勿体ないから、君にあげるよ」
阿久津から差し出されるのは、いつも「余り物」の善意だった。
同い年。同じ日に生まれたはずなのに、僕の人生は彼のお下がりだけで構成されていく。
感謝という名の屈辱。僕は、彼に支配されることでしか、明日を繋げない。
しかし、あの日。
完璧だったはずの「聖人」は、脳梗塞で倒れ、動かぬ肉体へと成り果てた。
「野上さん、あなたしかいないんです」
「阿久津さんに救われたあなたなら、彼を見捨てたりしませんよね?」
周囲から浴びせられる、無垢な正義の拍手。
30代後半。人生の折り返し地点で、僕の未来は「彼を一生生かし続ける」という終身刑に確定した。
死なせない。絶対に、死なせてやるものか。
僕が彼を世話し続ける限り、僕は「献身的な親友」という聖域の中で、彼をなぶり殺しにできるのだから。
――これは、善意で塗り潰された部屋で、二人の男が共倒れしていくまでの記録。