あらすじ
祖父が亡くなったのは、本当にふっとした出来事だった。
通夜も葬儀も静かに終わり、実家の整理をしていた佐藤一は、裏庭の片隅に古びた赤いポストが残されていることに気づく。今では使われていないはずの、錆びついた郵便受け。何気なく中を覗いたその瞬間、一の人生は少しだけ歪み始める。
中に入っていたのは、たった一通の手紙。
差出人も消印も曖昧だが、文面は驚くほどはっきりしていた。
――「はじめまして。あなたは、未来の佐藤一さん、ですよね?」
それは百年前の日付で書かれた、少女からの手紙だった。
彼女は自分の暮らす時代のこと、家族のこと、そして“このポストに手紙を入れれば、必ずあなたに届く”と信じている理由を、素直な言葉で綴っていた。
半信半疑のまま、一は返事を書く。
すると数日後、ポストには再び手紙が入っていた。
それは偶然ではなかった。ポストは、百年という時間を隔てた「往復」を可能にする装置だったのだ。
やり取りを重ねるうち、一は気づき始める。
少女の語る日常の裏に、これから訪れるはずの“大きな時代のうねり”が隠れていることに。
そして、その運命は祖父の人生とも、深く結びついていた。
過去に手を伸ばすことは、未来を変えることなのか。
それとも、変えられない歴史をなぞっているだけなのか。
百年前の少女と、現代を生きる一。
手紙だけで繋がる二人の選択が、静かに時代を揺らしていく――。