あらすじ

「消えるのではない。お前がその音を殺すのだ」 音楽大学の最上階。冬の絶対零度が支配するレッスン室。 真鍮の管体に己の血を吸わせ、虚空を切り裂こうとするトランペッターの煉(れん)。 かつての光を失い、誰の弔いも受け付けぬ漆黒の柩(ひつぎ)を抱えるチェリストの万記(まき)。 二人の奏でる不協和音が、静寂に沈む校舎を泥靴で踏みにじる。 大学という清潔な鳥籠を追放され、辿り着いたのは、不完全燃焼の匂いが漂う備品倉庫。 互いの音を殺し、凌駕し、その果てに自分という個を「純粋な光」へと変換しようとする、狂おしいまでの執着。 「愛」などという生温い救いは必要なかった。欲しかったのは、すべてを白紙に戻すほどの絶体絶命の熱量だけだ。 舞台は音楽の聖域から、火花が飛び散る鉄工所の跡地へ。 一万度の熱量を孕んだアーク放電の青白い光の中、二人はついに、人間であることを辞める。 それは音楽の稽古ではない。自分たちの命が本物かどうかを確かめるための、公開処刑にも似た儀式。 これは、音という名の怪物に憑りつかれ、すべてを焼き切り、そして再生した者たちが、灰の中から「微かな体温」を見つけ出すまでの物語。 白熱の断頭台を経て、二人が辿り着く、静かな夜の「残熱」とは。

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カクヨム
カクヨム2026/01/30
  • 現在の作品白熱の残熱 ―― 絶唱を焼き切る、剥き出しの業(ごう)