あらすじ

緩やかに朽ちていく工場の廃墟、折れた鉄骨、赤錆、夏の喧騒。  絵の具の鯨と啼きやまないヴァイオリンの弦。 「僕はここで絵を描いてるんだ。なんの意味もない絵を描いている」  緑と赤錆と画材のにおいを肺に詰めて浅く呼吸をしていた、短い夏。  彼は意味のない絵を描き続け、俺は意味のない音を奏でた。時を浪費する。命をもてあます。なまえを教えることもなく、誰でもないように振る舞って。 「人の本能は、常に歯車であろうと働き続けている。人は役割に準じることでみずからの価値を認識する。意味というものの無意味さを。他人からつけられた価値の無価値さを。認識しながら、僕らは生きていくことができる」  どうにもならない生きづらさを感じていたふたりが、ほんのひと時だけ歯車から逃げだして、おんなじところに身を寄せただけの。 「僕はここにいるつもりだよ。夏が終わるまで」  それでも、あの夏。  俺とあんたは確かに。      ――――息をしていた。 「君を歓迎する」 *過去作のリメイク版です(1万6千文字から1万文字まで切削) *エブリスタにも投稿していました(現在非公開)

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カクヨム
カクヨム2026/01/30
  • 現在の作品鯨は52ヘルツの呼吸《いき》をする