あらすじ
「宇宙の虚無は、叫びを聞き届けはしない」
アルヴ任務、遠征44。宇宙船イラナ・スペクター号は、月軌道上で絶望的な漂流を続けていた。
宇宙滞在541日。地上との通信は途絶し、船内には毒性の強い不凍液と、狂気にも似た「囁き」が充満している。
機関士キカに残されたのは、首に括り付けられた一冊のメモ帳だけだった。
極限の孤独と電磁場が記憶を削り取り、数秒前の自分さえ忘却の彼方へ消えていく。
「私を読め」
自ら書き残したその言葉を頼りに、彼女は欠落していく自分を繋ぎ止める。
船内に響く「老機関士」の足音。月面に刻まれた巨大な傷跡。そして、6000年前の古の文明から届いた、身に覚えのない宇宙服。
これは、宇宙に魅入られ、虚無に蝕まれた者たちの、最後にして最悪の記録。