あらすじ
かつて魔界の貴族として恐れられ、“影の将”と呼ばれた男
アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。
人間界では「アルおじ」と呼ばれ、静かな老後を送る彼の元に、一通の手紙が届く。
そこに収められていたのは、昔の友人の娘・藤久美子の結婚写真。
その穏やかな幸福を前に、彼の胸には、決して語られぬ過去が蘇る。
それは、魔界と人間界が激しく争っていた時代。
魔王の命により、人間王国《アレルシア》へ潜入した若き日のアイゼンハワードは、
傭兵「アル」と名乗り、王国崩壊の種を蒔く任務を帯びていた。
だが彼はそこで出会ってしまう。
剣を取り、民の盾となり、王族でありながら戦場に立つ王女――
セーラ・ティアラ・アレルシアに。
信念と誇り、そして人としての優しさを併せ持つ彼女に、
“任務”として近づいたはずのアルの心は、次第に揺らぎ始める。
王女を籠絡せよ。
それが叶わぬなら、排除せよ。
魔王の冷酷な命令と、
守るべき姫の微笑みの間で、
彼はついに決断する。
世界を裏切るか。
愛を殺すか。
選ばれたのは、どちらでもない「逃避」だった。
すべてを失った男は、長い時を経て、今もなお問い続ける。
あのとき、私は正しかったのか。
これは、“世界を裏切った魔族”と“命をかけて守られた王女”の
誰にも知られぬ、哀しく静かな恋の物語である。