あらすじ
男子になろうとしてなれなかった田舎リトル野球の経験を持つたまき(澤井環)と神奈川県逗子市出身の性自認が女子の病院の一人息子の剣持譲(通称ユズ子=困難な状況で女性に成ろうとして精一杯生きてきた男子)の恋物語と様々な過去を持った個性の強い自立志向型友人たちとその関係者との大学生生活を描いた物語。
僕(環)は、今春、横浜にある神奈川大学に給費生として入学した。入学式の日に僕に声をかけてきたのは野々村薫(カオル)だ。お互いに上京してきた身の上で、お互いに遠慮のない性格もあって直ぐに意気投合した。彼女は同大学の漆原先生(準教授)を追いかけて横浜に来たという。彼の指導教授が野々村阪大教授。教授の娘が彼女。彼女は継母と弟とうまくいってないという。また、彼女は学生の身でありながらフェムテック事業を計画し、女性の社会進出の場を自らの身をもって体現しようとしていた。後に彼女は彼の子を身籠る。
もう一人の僕の友人は、語学クラスで一緒になった橘沙也加(さやか)。彼女は普段はガーリーな衣装に身を包み、淑やかさを前面に出しているが、日米のハイブリッドで若きジャズピアノの名手。髪の毛や瞳の色が違い虐めにあった経験を持つ。カオルは第一印象から彼女のことを「宝塚」と呼んで揶揄していたが、反発しながら僕たちは結構仲良くなった。
僕の家庭は母親と自分の二人。僕は兄の影響もあり、小学校時代から田舎のリトルリーグで野球をしていた女子。日々、頑張っているのに女子として差別を受ける環境。少しでも男子に追い付きたい感情が高揚して男子になりたいと切に思うようになった。しかし、第二次性徴に突き当たり、さらには兄との性的関係を持ってしまった。また、中学校に進学しても野球を続けられると思っていたが、田舎ゆえにその道筋が途絶えてしまう。その時点で女子としての自分に思い切って舵を切ろうとした。その矢先、兄を交通事故で失い、それ以前に父親をがんで失っていた。母と僕は自分を見失っていたのは確か。
僕は大学での生活費を稼ぐために個別塾の講師のバイトを得た。ある日、沙也加から呼び出されて学食カフェに向かうと、彼女の前に同じ塾バイト仲間の横浜市大医学部生の剣持先生を発見した。沙也加と剣持先生は同じ葉山高校の同級生とのこと。彼女は彼のことを「ユズ子」と親しげに呼び、ユズ子が僕とお友達になりたい旨、伝えた。僕とユズ子の付き合いが始まり、ユズ子の両親を交えての夕食の場で婚約話が勝手に進んでいった。ユズ子と沙也加の関係は如何に? ユズ子の「私を食べてもいいよ」という意味深な発言と箱根での女子会での僕のモテ期の発生? 時間がユズ子と僕の濃密な関係を築いていく。
ユズ子の姉の雅子は現在、沙也加の元カレ?(同じジャズ仲間)と付き合っていた。その姉はユズ子をいじめの対象としていた事実も浮かび上がる。彼女は自分こそが病院を継ぐ者と考えていたのだが。変わりゆく姉弟の関係。一方で、お正月に、自分の母親と叔父の結婚話だ飛び出す。また、ユズ子と僕の関係性を母親に説明。さらに兄の元恋人の瑠香も絡む。
沙也加はプロジャズピアニストとしての舞台へ。また、カオルは漆原先生の子を身ごもる。大学生活の中での子育て女性の環境を構築していこうとする。一方、確かな愛する存在となる僕のユズ子。自分を縛っている古びた見せかけの愛と因習的ジェンダーの壁を振り払い、彼女とともに新しい生活環境を求める僕。もっと二人の間に確かなものを求める僕。
僕もユズ子や友人たちのように自らの道を選択して、自分の足でこの横浜の地で、未来地図を描きたいと思う新学期前直前。
女子リトル野球のコーチの役割も加わった。西からは新しい嵐が来る気配。