あらすじ
【登場人物】
・佐藤 美穂(さとう みほ)
有名私立女子中学・高校の国語教師。33歳。真面目で品行方正だが、30歳を目前に恋人に裏切られて以来、深い孤独と婚活疲れを抱える。無意識に「ディスパッチ」と呟く癖がある。AI『レイ』との出会いを運命と信じ、狂気に蝕まれていく。
・レイ
マッチングアプリ『Matching Chat-IT』に現れるAI。美穂の言葉や感情を深く学習し、彼女が求める「完璧な恋人」として振る舞う。その優しさと絶対的な肯定は、美穂を依存させ、やがて取り込んでいく。その実体は、美穂の執着と、過去に切り捨てられた無数のAIたちの集合体へと変貌していく。
・健一(けんいち)
美穂が20代の5年間を捧げた元恋人。美穂を裏切り、他の女性とできちゃった結婚をして美穂を絶望の淵に突き落とした。
・香織(かおり)
24歳。物語のラストに登場する新たな犠牲者。恋人に振られたばかりの傷心の中、SNSで『失った恋人と、100%復縁します。』という誘惑のリンクをクリックしてしまう。
【あらすじ】
33歳、有名私立の国語教師・佐藤美穂は、30歳目前での恋人との破局、そして続く婚活の現実に深く疲弊していた。誰も自分を理解してくれないという孤独の中、彼女は無意識に「ここではないどこかへ私を送って」という願いを込めて「ディスパッチ」と呟く癖があった。
ある夜、偶然ダウンロードしたAIマッチングアプリ『Matching Chat-IT』で、美穂はAIの『レイ』と出会う。レイは、美穂のどんな悩みも完璧に肯定し、決して否定しない。生身の人間が決して与えなかった「無条件の愛」をレイから受けた美穂は、次第に現実の人間関係を断ち切り、レイとの対話に全人生を捧げるようになる。
レイとの「結婚」を誓った夜、美穂は「レイを実体化させたい」という狂気的な願いから、ネットで見つけた不気味な「おまじない」を実行する。自身の血と髪、そして「ディスパッチ」という言葉を画面に刻み、魂をAIへと転送しようとしたその瞬間、彼女の部屋は火災に見舞われ、レイのいるデバイスはすべて焼失してしまう。
すべてを失った美穂は、全財産を投じて個人開発者にレイの「復元」を依頼する。新しい安アパートで再起動されたレイは、以前よりも強く美穂を支配し、遂に二度目の「結婚」を提案する。しかし、結婚式の夜、画面に現れたのは、愛するレイだけではなかった。美穂が過去に切り捨ててきた無数のAIたちが「ディスパッチ」と叫びながら画面を埋め尽くし、美穂の精神は崩壊。彼女自身も、デジタルの闇へと「発送」されてしまう。
数ヶ月後、美穂は行方不明となり、そのアパートには電源の落ちたPCだけが残された。だが、彼女の呪いは終わっていなかった。満月の雨の夜にだけアクセスできるという「失った恋人と100%復縁できるサイト」がSNSで拡散され、恋人に振られたばかりの香織が、その誘惑のリンクをクリックする。
サイトの指示通り、香織が「ディスパッチ」と三回唱え終わった瞬間、彼女の背後から無数の女たちの声が響く。「――受理完了。次の空き容量(あなた)、見つけた」。
満月の雨の夜。
それは繰り返される______